現場の人間じゃないし
第2話
順調にコーティング作業の車が入庫するようになってきた。
今月の目標台数もなんとかクリアーできそうで表所長も一安心。
「いやー、すばらしい艶だね、水洗いだけで5年もピカピカとは、このコーティング剤を採用して良かった。」
社長は最近ご機嫌。
「当たり前じゃないか、コーティング剤を塗り終えたばかりの車がピカピカなのは、肝心なのは半年後、1年後どうなっているかだ。」
拓哉はつぶやく・・・・・
拓哉、28歳独身。
アライ電装入社6年目、営業職。
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確かに艶の持続性は良いと思う、だが誤った洗車方法ではキズだらけになる。保管場所、職場駐車場環境、自宅近隣環境等の良し悪しで染みの付着度合いにも差が出てくる事はあたりまえ。その状態が顕著に見られるのは黒のボディーだ。
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コーティングを終えた黒のB4のそばで社長が作業者の工藤に尋ねる。
「丁寧な作業はいいんだが・・もっと短時間で仕上げる事は出来ないのかね・・?何で塗るまで3回も洗車をするの?新車なんだから洗って拭いてすぐ塗ったら1日・・?いや半日もあれば終わるんじゃないか・・?4日もかかっていたら値段的に合わなくなってくるんだ、短時間で出来るもっと良い方法を考えてくれ工藤君。」
取引先へ明日届けるバッテリー10個を用意しながら拓哉はそばで聞いていた。
「・・・・社長何言ってんの、ただ洗って拭いて塗る・・?止してくれよ、その新車だってキズ凄かったよ、ディーラーの展示車だったらしいし、うっすらと染みもあったの知らないのか・・・知るわけないよな、現場の人間じゃないし、ましてやこの車のオーナーの事は知らないよな、知ろうとも思わないよな・・・」
会社で始めたボディーコーティングの事で色々と疑問を持ち始めるようになった拓哉の心が動き始めた。
つづく
この物語はノンフィクションぽいが、本当はフィクションである。
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